近年、ZEBや省エネルギー建築の実現、また、感染症拡大防止などを背景に、放射空調方式を採用する事例が増えている。放射空調方式は、大きく分けて水式と空気式があり、水式は、既にISO規格、EN規格、及び放射(輻射)冷暖房協議会規格が存在し採用事例が多くなっている。近年では床吹き出し空調方式や天井空気式チャンバー放射方式などの事例もみられるようになり、2021年3月には、「空気式低風速放射空調吹出ユニット」がJIS制定された。
放射空調は、搬送の動力が低く省エネになるとともに、気流感も無く、温度ムラも小さいなど多くの利点がある。人間の体温調整には熱放射が大きく影響するとともに、空調方式の違いが人体の心理・生理に影響し、快適性や知的生産性の向上に寄与するという研究もある。本号では、こうした放射空調の基本原理、施工事例、製品動向を紹介する。
○放射(輻射)冷暖房システムが提供する人にやさしい空間とARCH規格/芝浦工業大学/秋元 孝之
放射(輻射)冷暖房システムは、ドラフトによる不快がなく、室内の温度ムラが少ないなどの特徴を持ち、省エネと高い快適性を両立し、執務者のウェルネスに大きく寄与する。放射空調方式の概念と、天井パネル式放射冷暖房パネルの性能試験方法について紹介する。
○放射冷暖房の消費エネルギー計算/東京理科大学/長井 達夫
放射空調システムのシミュレーションについて、計算法の概要について述べた後、対流方式との負荷レベルにおける比較を行い、また、1次側を含むシステム全体の省エネルギー性能に影響する要因について概観する。
○気流を発生しないふく射(放射)冷暖房のすすめ
コロナ禍における冷暖房と換気/東京都市大学/坊垣 和明
コロナ感染防止に配慮した暮らしが続くなかで、換気や窓開けなどへの配慮が求められている。本稿では、換気や冷暖房とそこにおけるふく射冷暖房の優位性などを紹介。換気による室温の変化に対してふく射冷暖房がその影響を緩和するものであることを示すとともに、ふく射冷暖房の特徴を解説した。
○対流空調と全空気式放射空調による冷房が居住者の皮膚血流量に与える影響/名古屋大学/齋藤 輝幸
空調方式の違いによる皮膚血流量への影響を確認するため、対流空調と全空気式放射空調を用いて、熱的に中立な冷房条件下で20代男性を対象に被験者実験を行った。顔面各部位の皮膚血流量を測定し、対流空調のスイング運転による皮膚血流量の低下傾向を確認した。
○全空気式放射空調方式の熱性能について/(株)NTTファシリティーズ 木幡 悠士
全空気式放射空調方式に関する汎用的な設計手法の確立を目的に、膜放射ユニットを用いた全空気式放射空調方式を対象とし性能評価を行った。
冷房期間において、設計条件が当該空調システムの放射熱伝達量および室内環境に与える影響について分析を行った。
○天井放射パネル空調性能予測手法/清水建設(株)/伊藤 清
天井放射パネル空調の開発や合理的な設計に資する天井放射パネル性能予測手法を紹介する。本手法の計算原理となる天井放射空調熱収支モデルの概要、モデルの妥当性の検証結果、この手法の概要を示す。本手法による能力線図を例示し、この有用性を示す。
○床敷設式冷温水パネルを用いた躯体蓄熱利用放射空調システム/(株)竹中工務店/牧野 幸太郎・左 勝旭
当社で新たに開発した、従来の埋設配管を用いた躯体蓄熱利用放射空調に対し躯体量の削減や更新性で利点がある「床敷設式冷温水パネルを用いた躯体蓄熱利用放射空調システム」について、システム概要、および導入事例とその実績評価の紹介を行う。
○電力中央研究所/我孫子地区新本館
自然エネルギーを用いた天井放射空調・床放射空調の事例/鹿島建設(株)/近藤 順也
2019年に竣工した電力中央研究所 我孫子地区新本館は、ウェルネス向上や省エネルギーへの様々な取組みが高い評価を得ている建物である。本稿では新本館の建築・設備計画概要、および自然エネルギーを熱源に利用した放射空調の計画事例を紹介する。
○NIPPO本社ビル/(株)日本設計/佐々木 真人・岸 紗也子/(株)NIPPO/山下 真人
NIPPO本社ビルはさまざまな都市インフラが立体的に結節する敷地に建設した本社ビルである。総合環境認証CASBEEにて Sランク認証も取得している。本稿では、快適な温熱環境を支えている空気式床放射空調とあわせて、ファサードデザインや自然換気など総合的に環境を形成する周辺技術についても紹介する。
○床放射冷暖房システム/天井放射冷暖房システム/(株)インターセントラル/籠田 稔男
放射冷暖房システムは、省エネルギー性と快適性が両立でき、さらには健康性が期待できる可能性をもっており、対流式の空調方式に比べ大きな可能性を秘めた冷暖房システムである。1992年に特殊プレートを使用した水熱媒方式の放射冷暖房システムを販売して30年が経過した。ここでは同社の放射冷暖房システムのラインアップについて紹介する。
○ササクラ放射空調システム
気が付けば直撃風ゼロの感動~我慢しない省エネ~/(株)ササクラ/渡辺 伸介・前羽 誠
冷暖房は居室においては脇役である。仕事をする、リラックスする、睡眠をとる等において、暑い・寒い・風が当たる・音がうるさいなどで本来の目的に集中できないことがあっては冷暖房として完璧とは言えない。冷暖房に「気が付かない」ことが最上の冷暖房システムであり、それが当社の省エネ・快適な放射空調システムである。
○輻射(放射)冷暖房パネル「パネルシェード」/(株)三葉製作所/菊池 聡史
パネルシェードの仕組みを中心にアルミ三層複合ポリエチレン管やルームコントローラーなど当社独自の取り組みや製品需要の動向なども紹介する。
○ダイナミックレンジ放射空調システム
自然エネルギーを最大活用する放射空調システム/新菱冷熱工業(株)/坂本 裕・近都 州彦/(株)三菱地所設計/平須賀 信洋・加藤 駿
従来の放射空調システムの省エネルギー上の課題を様々な開発技術によって解決、若しくは改善し、地下水や河川水の利用が困難な都市部でも自然エネルギーを最大活用する放射空調システムの概要を事前検証や性能検証とともに紹介する。
○全空気式床ふく射冷暖房システム
「ユカリラ」/大建工業(株)/佐藤 友紀/(株)エコ・パワー/角田 正/(株)ユカリラ/入來院 昌彦
本稿ではユカリラの製品構成とシステムの基本概念について紹介する。温熱環境については上下方向および、水平方向の温度分布が小さいこと、気流が小さいこと、乾燥抑制効果が高いことを、空気環境についてはvoc、および微生物濃度が基準値以下であることを実測結果より紹介する。
○除湿型放射冷暖房システムにおける冷暖房メカニズムとその利用技術
PS HR-Cの実効性とその応用、運用の実例について/ピーエス(株)/百家 裕季
放射冷暖房分野は広く認知され社会実装されるステージにある。本稿では、その中でも除湿型放射冷暖房機の機能的特徴に加え、効率的な熱の使い方と環境のつくり方、システムの構成と運用の実際という利用技術の側而から解説する。
○次世代ハイスペック輻射式冷暖房
THEAR「シアー」 住宅用/産業用/大空間用モデル/(株)シアーコーポレーション/(株)プロトテック/藤原 淳之介
THEAR「シアー」は、北米・欧州・アジアを中心とした世界14ヵ国を超える国々で温熱環境をコントロールしている、「高性能」「高品質」「ハイデザイン」をコンセプトとした次世代のハイスペック輻射式冷暖房機である。一般用をはじめ、産業用、大空間用など幅広い分野で展開している。
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